関の小万は亀山かよひ 色を含むや冬ごもり
初春の祝いにて ぬふちょう袖の花笠
夏は涼しき網代笠 秋は高尾にそめたりな紅葉笠
それそれ小万
またおどりだせ小万
てん手拍子がそん揃うた
そろたそろた そろそろそろたとさ
月の笑顔に 菅笠を揃えて
そりや誰が笠よ そりや誰が笠よ
冬は雪見にかざす袖笠
花の都の御所塗り笠よ なりがようて
さてさてどっこい ようござる
花の一重は亀山の 花の一重は亀山の
見ても見あかぬ春景色
現代語訳:
関の小万は(男の子のように)亀山の道場に通っているよ。
「冬ごもりだって、春の色を含んでいるものよ。」
初春のお祝いには、新しい着物に合わせて花笠もあつらえた。
夏は涼しげな網代笠、秋は高尾染のような紅葉笠。
それそれ、小万。また踊りだせ、小万。
手拍子がそろった、そろった、そろったね。
月の笑顔に、お揃いの菅笠。
それは、誰の笠?それは誰の笠なの?
冬は雪見にかざす、袖笠。
花の都、京都の御所塗笠。立派でいいわね。
花の一重は亀山の、
みても見飽きることのない、春の景色。
解釈とお話:
関の宿屋で、みんながうわさをしています。
「小万ちゃんは、女のくせに亀山にある道場なんかに通っているよ。」
小万は言い返します。
「冬ごもりのように殺風景でも、女の子らしい色を含んでいるものよ。
初春のお祝いに、長袖の着物に合わせた花笠でしょ。
夏は涼しげな網代笠でしょ、秋は高尾染のような紅葉笠よ。」
怒った様子の小万に、宿屋の女将さんが声をかけます。
「さあさあ、小万ちゃん、きげんを直して踊ってよ。」
小万の上手な踊りに、みんなの手拍子もノリノリでそろっていきます。
「そういえば、月の夜、笠のいらない夜にわざわざお揃いの菅笠って、
もう一つはいったい誰の分の笠なのさ?」
みんなに冷やかされて、真っ赤になる小万。生涯独身だった小万にも、恋バナがあったのかもしれません。
冬は雪見にかざす袖笠、春には京都の御所塗笠。御所塗笠はとても素敵でウキウキします。
亀山も、一面の春景色です。
道場に通う小万は、きっと年頃になっても着飾ることはできなかったのでしょう。でも、いつも流行りの笠でおしゃれを楽しんでいたのでしょうね。